« 効果があったかな? | メイン | 休み明けの楽しみ »
2007年08月21日
安いから使っているんじゃないんだけどなあ。
夜、日テレの某番組で、お客さんがほとんど来ていないクリーニング屋さんはどこで儲かっているのか?と言う内容の放送をしていました。
ちょうど配達の最中でしたので、一旦車を止めて、見ていました。
周辺の聞き込み調査、3日間の定点観測などをして、本当にお客さんの来ないクリーニング屋さん。
普通の人は不思議に思うのも理解できます。
なぜつぶれないのか?解説が始まったのですが、その説明にむむっ!と違和感が。
そのお店、使っている溶剤が違うんですね。
今では珍しい、フッ素系の溶剤を使っているんです。
他のお店では使わない、フッ素系の溶剤を使っているので、同業者からの依頼がたくさんあるとの事。
それはまあなんとなく分かるんです。
番組の説明では、他のクリーニング屋さんでは安くクリーニングするために、値段の安い石油系の溶剤を使っていると言うんですよ。
フッ素系の溶剤は高いのでこだわっている、と言うような言い回しです。
確かにフッ素系の溶剤は高いんです。
でもそれには理由があります。
フッ素系はすでに生産されておらず、希少性が高まっています。
流通しているものも非常に少なくて、どこかのお店が買い置きしていたものを取引されているものがほとんどです。
ですから本来の価格に比べて数倍の値段になっている事もあります。
高いんですがメリットも。
完全クローズドな機械を使っているので、使った溶剤もちゃんと回収できます。
ですから、ほとんど溶剤が減らないんです。
初期投資がかかりますが、ランニングコストは低くなりますよね。
ではなぜ他のお店がこのお店にクリーニングの依頼をするかというと、フッ素系の溶剤は、油脂溶解度が低く、沸点が低いため、デリケートに洗う事が出来るからなんですね。
油脂溶解度が低いと言う事は、樹脂などを溶かしにくいと言えます。
沸点が低いと、温度を上げなくても乾燥が出来、衣類に負担をかけないでクリーニングする事が出来るんです。
良い所だらけのような気がするフッ素系をつかないのは高いからか?と言うとそうでないんですよ。
溶剤選びは他の要素も考えながら皆さん選んでいます。
ドライクリーニングの溶剤は他に、石油系溶剤、パークロルエチレンとありまして、各々特徴があります。
油脂溶解力が強いのはパークです。
こちらはフッ素系の3倍、石油系のほぼ2倍ほど。
油汚れなどを強力に落とすことが出来るんです
ここでふと疑問が出るんではないでしょうか。
先ほど私はフッ素系のところで、油脂溶解力が弱いと言う事は樹脂などを溶かしにくくすると書きました。
パークのところでは、油汚れを強力に落とすと書きました。
相反する事を書いているようですが、ここが選択の微妙なポイントなんです。
つまり、油脂溶解力と言うのは油汚れを落とすために必要なんです。
ところが、強力すぎると衣類によっては、素材によっては事故が起こる原因にもなります。
そういう意味では、フッ素系やパークと言うのは対極に位置しているといっても良いかもしれません。
そこでその間を取ったのが石油系。
油脂溶解力もちょうど中間で、取りすぎず弱すぎずといったところでしょうか。
じゃあ石油系が良いのか?と言うとこれもまた難しいところで、石油系は溶剤管理が非常に難しい。
フッ素系やパークは、乾燥時に溶剤を回収するので、蒸留されたように溶剤がきれいになります。
ところが、石油系は回収乾燥機などを使っていれば別ですが、ほとんどがそのまま。
溶剤管理にかなり気を使わないと事故が起こりやすくなってしまうんです。
どれもこれも一長一短ですね。
さらに、洗いあがるまでの時間もまちまちでして、一番時間がかかるのは石油系。
洗いから乾燥まで含めると1時間弱かかってしまいます。
早いのはパーク、フッ素。
速いと言うことは生産性が高いと言う事ですから、大量に捌くようなところでは重宝しますね。
このように、溶剤を選ぶときは、溶剤の値段どうのではなく他の事を十分に考えながら選んでいるわけです。
クリーニングのことをまったく知らない人たちが、専門用語を聞いて、作ったんでしょう。
誤解が生じるのは当たり前でしょうね。
でも、他のクリーニング屋さんに影響があるような表現はいかがなものかと思います。
もうちょっとうまく表現してほしかったな。
さて、このように一長一短があるドライクリーニングの溶剤。
クリーニング屋さんではいろいろ試行錯誤しながら使っています。
デリケートなものを外注にまわすと言うのも一つの手ですし、機械を二台入れるというところもありますね。
また、溶剤の特性を利用して、油脂溶解力を調整しながら洗う、なんていうお店もあります。
各々特徴があるからこそ、そこに試行錯誤が生まれるんですね。
その試行錯誤の結果が、洗いあがりの差につながっています。
投稿者 boribori : 2007年08月21日 23:00